春日山原始林について
春日山原始林とは
奈良市の市街地東方に位置する原始林です。標高は498m、面積約250ha。
春日大社の神域として、古来より狩猟や伐採が禁止されてきました。
春日山原始林には、1,100年以上も人の手が加えられず、照葉樹(※)の原始林が広がっています。
このような原始林が、観光都市に隣接し残っているのは学術上非常に貴重です。

※照葉樹林とは・・・冬でも落葉しない広葉樹で、光沢の強い深緑色の葉を持つ樹林に覆われた森林のことです。現在では利用・開発によりその大部分が失われ、まとまった面積の森林はほとんどなくなってしまいました。
春日山原始林の課題
世界遺産に登録された春日山原始林ですが、生態系への大きな影響のある様々な課題を抱えています。これらの課題を放置したままだと、200年後、照葉樹林である春日山原始林は消滅する危険があります。
1.動物によるシイ・カシ等の採食・樹皮剥ぎ被害
次世代樹木の育成不足
2.外来種(ナンキンハゼ・ナギ)の増加
動物の不嗜好植物の照葉樹林への侵入の拡大
3.ナラ枯れの発生
照葉樹林を形成するシイ・カシ等の減少
4.下層植生(シダ・コケ植物の衰退)
生態系への影響
野鳥への影響は・・・
- 樹木・下層植生の減少
- 野鳥の主な活動の場、隠れ場の減少
- 下層植生・腐植層の貧弱化
- 水質悪化、餌取り場の減少
- ギャップ(隙間)の拡大
- 森林内の明るさ、湿度の変化
環境変化(明るくなった等)により減少した主な野鳥たち・・・
- アカショウビン
- 夏鳥、体長約27cm、森林に生息。絶滅危惧種に指定。
サワガニ、カエル、トカゲなどの小動物や虫を捕食。カワセミの仲間。“火の鳥”と呼ばれることも。
- ヤマドリ
- 留鳥、体長約125cm(雄)、約55cm(雌)、山地・森林に生息
- ミゾゴイ
- 夏鳥、体長約49cm、平地、低山地の森林に生息
逆に、環境変化により増加した主な野鳥たち・・・
- キビタキ
- 夏鳥、体長約13cm、明るい雑木林に生息
- ハシブトガラス
- 留鳥、体長約56cm、森林・都市部に生息
- ヒヨドリ
- 留鳥(漂鳥)、体長約27cm、里山、都市部に生息
- 火の鳥『アカショウビン』に出会ってみたい!!
- 赤い羽毛のアカショウビンは、まさに“火の鳥”。一度は出会ってみたい。森に響き渡る美しい鳴き声も聞いてみたいものです。
原始林の保全効果で、いつかこの森に戻って来てくれるのでは...。
今後のreport をお楽しみに
昆虫(蝶)について
絶滅? ルーミスシジミ
春日山原始林の蝶と言えば、国の天然記念物ルーミスシジミが全国的に有名です。
高湿の原生林を棲みかとするこの蝶は、かつて春日山に多く生息していましたが、伊勢湾台風により食草(木)とするイチイガシがたくさん倒れ、その後の農薬散布もあって、この地では絶滅したとも言われています。しかしながら、いまでも多くの地図には“ルーミスシジミ生息地”と記載されています。
再発見 ルーミスシジミ?
かつて新聞紙上で、『春日山のルーミスシジミ再発見』と掲載されたことがありましたが、後日、間違いとして訂正されました。実はよく似たムラサキシジミと誤認されたものでした。
- コバルトブルーに輝くルーミスシジミに出会ってみたい !!
- ルーミスシジミは、全国的に原生林の減少が著しい昨今、衰亡の一途をたどる運命にあるようですが、もしかして春日山原始林のどこかで、ひっそりと世代交代を繰り返しているのでは・・・と願ってしまいます。コバルトブルーに輝くルーミスシジミにいつか出会ってみたいものです。
今後のreportをお楽しみに

奈良県内で絶滅が心配される蝶たち・・・
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写真:ギフチョウ
(他の産地)- 二上山のギフチョウ
- 春、カタクリの花に好んで飛んでくる日本特産の可憐な蝶。環境変化や幾度の山火事で姿を見かけなくなっていましたが、現在は二上山から葛城山にかけて見ることができます。
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写真:オオウラギンヒョウモン
(他の国内産地)- 若草山のオオウラギンヒョウモン
- 隣の若草山でもかつては見られましたが、全国的な牧草地の減少等によって激減。県内はもちろん、近畿地方でも絶滅したと言われるまぼろしの蝶。
春日山原始林の象徴 ルリセンチコガネ
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写真:ルリセンチコガネ
(春日山原始林)- 春日山原始林の象徴 ルリセンチコガネ
- 春日山原始林の象徴とも言える美しい昆虫が、ルリセンチコガネです。目を凝らせば奈良公園でも見つかります。※センチの意味はトイレ。動物の糞などに集まる甲虫で、フンコロガシは近似種です。古代エジプトでは、フンコロガシは再生・復活の象徴である“聖なる甲虫”として崇拝されています。
植物について
奇跡の森“春日山原始林”のイチイガシ
春日山原始林の中に入ると、大きなイチイガシが見られます。春日大社が創設された頃は、春日山の麓から飛火野にかけては、このイチイガシなどの照葉樹が広がっていました。今も、春日大社の境内や飛火野のところどころにイチイガシの巨樹があります
かつての奈良盆地周辺部にイチイガシの林が広がっていましたが、稲作の伝来等により照葉樹の森は姿を消していきました。
尚、この木は国の天然記念物の蝶、ルーミスシジミの食草(木)でもあります
